今回は、腎臓リハビリテーションについて、腎臓リハビリテーションガイドラインを紹介する形で、慢性腎不全の患者を保存期や透析期などの4つカテゴリーに分類し、それぞれに対して主に運動療法を中心とした介入について、エビデンスに基づき説明していきたいと思います。
腎臓リハビリテーションガイドラインは、日本腎臓リハビリテーション学会により2018年に刊行され、同内容のものが2019年に日本透析医学会の欧文誌である” Renal Replacement Theray”に投稿されています。
今回は以下の流れで進めていきたいと思います!
(1)はじめに
- 慢性腎不全( Chronic Kidney Disease : CKD)について
- 腎臓リハビリテーションとは
- 日本腎臓リハビリテーション学会とは
- 腎臓リハビリテーションガイドラインの目的
(2)腎臓リハビリテーションガイドラインの内容
- 「推奨の強さ」および「エビデンスの強さ」
- 腎炎 / ネフローゼ患者に対するリハビリテーション
- 保存期CKD患者に対するリハビリテーション
- 透析患者に対するリハビリテーション
- 腎移植患者に対するリハビリテーション
(3)さいごに
それでは、よろしくお願いします!
(1)ー1.慢性腎不全( Chronic Kidney Disease : CKD)について
CKD患者数は1330万人、透析人口は32万人まで増加しています。そして新規透析導入患者の平均年齢は69.2歳、透析人口全体の平均年齢は67.9歳と高齢化が進んでおり、透析導入3年後の死亡率が30%を越え、予後が不良と言われています。
(1)ー2.腎臓リハビリテーションとは
リハビリテーションとは「能力低下および社会的不利をもたらすような状態の影響を軽減し、能力低下及び社会的不利のある者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を包含している」とされ、腎臓リハビリテーションは「腎疾患や透析医療に基づく身体的·精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神·心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラムである」と定義されています。
(1)ー3.日本腎臓リハビリテーション学会について
2011年に日本腎臓リハビリテーション学会は2011年に設立され、2012年には腎臓リハビリテーションが刊行しています。さらに2016年には保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引きがホームページ上で公開し、2018年に腎臓リハビリテーションガイドラインを発刊しています。
(1)ー4.腎臓リハビリテーションガイドラインの目的
ガイドラインの目的は、「腎臓リハビリテーションの医療の質、安全性と有効性、およびその提供を最適化すること」とされています。
(2)ー1.「推奨の強さ」および「エビデンスの強さ」
このガイドラインは腎疾患について腎炎/ネフローゼ、CKD、透析療法、腎移植の4つのグループごとにクリニカルクエスチョンを作成し、それについて解説していくという形で構成されています。そして、それぞれのクリニカルクエスチョンに対する推奨度についての解説の際に、以下のように推奨の強さを1~2の2段階、エビデンスの強さをA~Dの4段階で評価しています。
(2)ー2.腎炎 / ネフローゼ患者に対するリハビリテーション
CQ1 糸球体腎炎患者に運動制限は推奨されるか?
推奨文 糸球体腎炎患者に運動制限を行わないことを提案する [ 2D ]
年齢や腎機能障害の程度を個々に考慮する必要はあるものの、運動により糸球体腎炎の予後が悪化するというエビデンスや、安静による運動制限により予後が改善するというエビデンスは明らかではない、ということや、糸球体腎炎患者における運動療法について、画一的に可否を判定するのではなく、個々の症例や病期に応じてその適応や程度を判断し、臨床経過を観察することが重要であるということが考慮され、推奨文は「糸球体腎炎患者に運動制限を行わないことを提案する」、とされ、推奨度は[ 2D ]となっています。
CQ2 ネフローゼ症候群における安静・運動制限は推奨されるか?
推奨文 ネフローゼ症候群を呈する患者に、
過度な安静や運動制限を行わないことを提案する [ 2D ]
寛解期にあるネフローゼ症状群の患者に関して、運動制限を支持する臨床的なエビデンスはない、ということや、安静および運動制限の効果を直接的に検証した報告はなく、ネフローゼ症候群の患者における安静および運動制限の効果は明らかではないというところが考慮され、推奨文は「ネフローゼ症候群を呈する患者に、過度な安静や運動制限を行わないことを提案する」とされ、推奨度は[ 2D ]となっています。
(2)ー3.保存期CKD患者に対するリハビリテーション
CQ3 保存期CKD患者に運動療法は推奨されるか?
推奨文 保存期CKD患者に対し、年齢や身体機能を考慮しながら
可能な範囲で運動療法を行うことを提案する [ 2C ]
CKD患者における運動療法の影響に関して、死亡、腎予後、入院、運動耐容能、QOLの5つのアウトカムの観点から検討され、死亡、入院に関してはRCTはなかったものの、その他の項目についての検討の結果、推奨文は、「保存期CKD患者に対し、年齢や身体機能を考慮しながら可能な範囲で運動療法を行うことを提案する」とされ推奨度は[ 2C ]となっています。
(2)ー4.透析患者に対するリハビリテーション
CQ4 運動療法は透析患者において有用か?
推奨文 透析患者における運動療法は、
運動耐容能、歩行機能、身体的QOLの改善効果が示唆されるため、
行うことを推奨する [ 1B ]
透析患者への運動療法について生命予後、運動耐容能、QOL、身体機能評価、筋肉量、アルブミン、ADL、透析量(Kt/V)、CRPをアウトカムとした検討がなされ、筋力、筋肉量、アルブミン、CRPについては、統計学的な有意差はなかったものの、その他の項目についても検討した結果、推奨文は「透析患者における運動療法は、運動耐容能、歩行機能、身体的QOLの改善効果が示唆されるため、行うことを推奨する」とされ、推奨度は[ 1B ]でなっています。
(2)ー5.腎移植患者に対するリハビリテーション
CQ5 腎移植患者のフレイル・低身体活動性は予後に影響するか?
推奨文 腎移植患者における移植時のフレイル・低身体活動性は
予後に影響する非常に弱いエビデンスがある [ 推奨度なし ]
システマティックレビューの結果、腎移植患者のフレイル·低身体活動性は生命予後、入院、入院期間、QOLに対して悪い影響を与える可能性があるものの、全体的なエビデンスは弱かったことから、「腎移植患者における移植時のフレイル、低身体活動性は予後に影響する非常に弱いエビデンスがある」とされ、推奨度はなしとなっています。ただし、今回のシステマティックレビューの結果は、フレイル·低身体活動性を有する腎不全患者へ腎移植を勧めないことを推奨するものではないことに注意が必要である、とも書かれています。
CQ6 腎移植患者において運動療法は推奨されるか?
推奨文 腎移植患者において運動療法を実施することを提案する [ 2C ]
システマティックレビューの結果、腎移植患者に対する運動療法は運動耐容能(VO2 peak)とQOLを有意に改善するものの、移植腎機能(eGFR)に関して有意な改善が得られるとは言えなかったことから、推奨文は「腎移植患者において運動療法を実施することを提案する」とされ、推奨度は[ 2C ]となっています。
(3)さいごに
こちらのガイドラインで特に運動療法が推奨されているのは、保存期CKD患者および透析患者でした。腎機能低下を助長してしまうとして以前は運動は禁忌と考えられていましたが、考え方は変化してきています。詳しい運動内容やその効果などについては、また別の機会に紹介してきたいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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