今回は、透析患者にとって運動および身体活動は推奨されるかというテーマについて話してみたいと思います。末期腎不全の状態である透析患者について、運動に対する考え方も変わってきていますので、まずはその全体像を見ていきましょう。
今回の内容
- 国際的なガイドライン
- 日本のガイドライン
- 運動/身体活動についての先行研究
- 今後の展望
1. 国際的なガイドライン
KDOQI clinical practice guidelines for cardiovascular disease in dialysis patients Guideline 14: smoking, physical activity, and psychological factors
- 全ての透析患者は、身体活動を増やすよう定期的にカウンセリングや励ましをされるべきである。
- 身体機能の評価は少なくとも6か月ごとになされるべきである。
- 透析患者の多くは深刻な身体機能低下に陥っており、推奨される身体活動に適応する筋力と耐久性を獲得するため理学療法への紹介を必要とするかもしれない。
- 定期的な身体活動として、少なくとも合計30分の中強度の活動をできれば毎日行うことが推奨される。
American Journal of Kidney Diseases, Vol 45, No4, Supple3 (April), 2005: pp S60-S67
2. 日本のガイドライン
透析患者における運動療法は、運動耐容能、歩行機能、身体的QOLの改善効果が示唆されるため、行うことを推奨する。( 1B )
Clinical practice guideline for renal rehabilitation: systematic reviews and recommendations of exercise therapies in patients with kidney disease
Yamagata, et al. Renal Replacement therapy. (2019) 5: 28
3. 運動/身体活動に関しての先行研究
29の先行研究にある運動への適応では、HD患者の重要な利益が述べられている。運動による生化学的、機能的、心理学的な適応は、心血管疾患発症リスクを減少させ、QOLを向上させ、生命予後を改善する可能性がある。
Exercise training in patients receiving maintenance hemodialysis: A systematic review of clinical trials
Birinder Singh B Cheema, et al. American Journal of Nephrology 2005; 25: 352-364
透析中の筋力トレーニングは実用的かつ効果的であり、結果として筋力、運動耐容能、身体パフォーマンスで測定した身体機能の統計学的および臨床的に有意な向上が見られた。
Effect of resistance exercise during hemodialysis on physical function and quality of life: randomized controlled trial
E Segura-Orti, et al. Clinical Nephrology. Vol71. No5. 2009
定期的な運動をしている患者が多い透析施設の患者は死亡リスクが低かった。施設における定期的な運動をしている患者が10%増える毎に、死亡リスクが9%低下した。
Physical exercise among participants in the dialysis outcomes and practice patterns study(DOPPS): correlates and associated outcomes
Francesca Tentori, et al. Nephrology Dialysis Transplantation(2010) 25: 3062-3070
透析中の低強度の運動は、高齢腎不全患者に対し安全で効果的である。筋力トレーニングは身体パフォーマンス、栄養状態、身体活動を向上させた。この研究で用いた運動様式を、透析患者に対する日常的なケアに追加することを提案する。
Effect of intra-dialytic, low-intensity strength training on functional capacity in adult hemodialysis patients: a randomized pilot trial
J L T Chen, et al. Nephrology Dialysis Transplantation(2010)25: 1936-1943
透析中に行うシンプルで実用的な筋力トレーニングは、筋力を改善し、QOLを有意に向上させた。
Effect of resistance exercise intradialytic in renal patients chronic in hemodialysis
Ronaldo Ribeiro, et al. Brazilian journal of nephrology. 2013; 35(1) : 13-9
透析患者の運動は、薬物療法と透析以外の主要な治療法の一つと考えられるべきである。
A structured exercise programme during haemodialysis for patients with chronic kidney disease: clinical benefit and long-term adherence
Anding K, et al. BMJ Open 2015; 5: e008709
椅子からの立ち上がり運動は、高齢透析患者の大腿四頭筋の筋量を増加させ、特に運動と移動におけるADL向上に有用であった。
Effect of chair stand exercise on activity of daily living: A randomized controlled trial in hemodialysis patients
Shota Matsufuji, et al. Journal of renal nutrition. Vol25. No1. 2015: 17-24
透析患者にとってウォーキングを主体とする身体活動を行うことは、死亡リスクの減少につながる。
Cox比例ハザードモデルで比較すると、活動量が4000歩未満の群の死亡リスクは4000歩以上の群よりも2.37倍高かった。
Physical activity does for hemodialysis patients: where to begin? Results from a prospective cohort study
R Matsuzawa, et al. Journal of Renal Nutrition. 2018; 28(1): 45-53
4. 今後の展望
- 透析患者への運動/身体活動は推奨するガイドライン、先行研究は増えてきている。
- 運動の種類や、運動のタイミングについて、すべてが明らかになっているわけではない。
- ほとんどの文献では、幅広い患者を対象とした、長期間の、ランダム化比較試験の必要性が記されている。
臨床的には、透析前後、透析中、非透析日、そして非監視型の自主トレについて、代表的な有酸素運動およびレジスタンストレーニングの方法が一つ明確になれば、あとはその中で各施設の各患者ごとに可能なものを採用して実施していくというのが良いかなと思います。今回はあくまで全体像をとらえることを目的としており、方法や内容、効果についての詳細は触れませんでしたが、それはまた機会に紹介していきたいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
youtubeで動画も公開しておりますので、是非ご覧ください!